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不器用なふたり トリプルバトルAfter the Love2

Author: 相沢蒼依
last update publish date: 2026-01-26 11:42:29

「陽さん?」

自分を突き通して見えない何かを見つめる橋本の面持ちは、得も言われぬ儚さが漂っていて、抱きしめたい衝動に駆られた。

「自分の不甲斐なさとか、ましゃきを守ってやれなかったこととか、江藤ちんと何回ヤったのかなんてさ!」

「はあ?」

語尾にいくに従い、目力を強めながらきっぱりと言いきった橋本の言葉を聞いて、腑に落ちないという感じに首をかしげた。

「陽さんすみません。逃げきったあとに車まで辿り着いて、現場から連れ去ると俺は豪語したのに、それができなかった無念があるので、冒頭と真ん中の意味については理解したのですが、最後のモノだけ、どうしても意味が分かりません」

疑問に感じたことを、自分なりに分かりやすいようにまとめて告げた途端に、橋本は勢いよく起き上がり、ベッドの上にあぐらをかいた。

「何で分かんないんら、ましゃき」

地の底から響くような低くて挑みかかる声に、ひゅっと躰が竦んでしまった。まるで、地獄の番人に声をかけられた気分に陥った。

「何で分からないんだと聞かれても……」

「ノンケだったお前を江藤ちんはたぶらかし、こっちの道に引きずり込んだんだよな?」

「へっ!? 俺っ
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  • BL小説短編集   第19章:揺らぐ輪郭2

    門をくぐった瞬間、いくつもの視線が俺をかすめた。昨日まではただのざわめきに過ぎなかったものが、今日はひとつひとつの視線が俺を値踏みするようで――そこに神崎の眼差しが紛れ込んでいる気がしてならなかった。 昇降口の前で、奏がぱっと笑顔を咲かせ、大きく手を振った。奏の笑顔は太陽みたいに変わらず眩しい。その光が嬉しいのに、胸のどこかがちくりと痛む。まるでその笑顔が俺ではなく、神崎のほうを照らしてしまうんじゃないかと、ありもしない想像が勝手に膨らんでいく。『――君が大事にしてる奏は、俺が一番よく知ってる。君よりも、ね』 不意打ちのように、その言葉は油断していた心に鋭く刺さった。俺は僅かに瞳を細め、呼吸を整えてから奏に歩み寄る。「おはよう」 「おはよ! 今日は少し早いね」 他愛もないやり取り。それなのに、自分が無理に声を軽くしていることを感じていた。奏の表情には、昨日の影がまったくない。それが救いなのか、それとも別のものなのか、答えはまだ出ない。 教室に入ると、同じクラスの神崎がふと視線を上げ、俺と目が合った瞬間、ほんの僅かに口元を緩めた。挑発でも嘲笑でもない。むしろ優しい笑みに近いその表情が、かえって俺の胸をざわつかせる。 休み時間。隣のクラスから奏がわざわざやって来て、机に腰をかける。週末の予定を楽しそうに話しはじめ、その声は本当に嬉しそうで――だからこそ、俺はあえて言葉を飲み込んだ。 神経質になっている俺が今ここでなにかを言えば、それは間違いなく棘になる。(……奏を守るって決めたのに。神崎に言われたたったひと言で、どうしてこんなに動揺しているのだろうか) 窓の外、風が校庭の砂をさらって舞い上げる。その砂は舞い散りながら、俺の胸の奥にも静かに降り積もっていく。気づけば息をするたび、胸の奥でざらついた重さが増していった。 次の日の昼休み、購買で買ったパンを手に教室へ戻ると、窓際の自分の席に奏が座っていた。机に肘をつき、窓の外をぼんやりと眺めている。その横顔はやけに無防備で、見ているだけで胸の奥が温かくなる――はずだった。けれど今はその無防備さが、俺の届かない誰かに開かれてしまうのではないかと、不意に不安を煽った。 その場で俺の足は止まり、不安で胸の奥が小さく揺れる。奏の視線の先、グラウンドに神崎が立っていた。偶然そこにいるようでいて、どこかでこち

  • BL小説短編集   第19章:揺らぐ輪郭

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    住宅街に入ると俺たちの間に、夕方の涼しい風が静かに滑っていった。 家までの道を半分ほど歩いたところで、氷室が唐突に足を止める。街灯のオレンジ色が、彼の髪と肩を柔らかく縁取っているのが目に優しく映った。「……奏。昨日、神崎と昼休みに話をしたこと、俺に教えてくれただろう?」 不意を突かれて、思わず足が止まる。「うん、そうだね」 「帰り道に奏から話を聞いて、いろいろ思ったことがあったんだが……あの時、君が随分と落ち込んでいたのもあって、うまく言葉にできなかった。本当はもっと慰めた言葉をかけたかったのに、俺には余裕がなくて――」 氷室はそれ以上はなにも言わず、ふたたび歩き出す。けれど、その横顔にはどこか影が差していた。「神崎のこと、嫌ってるわけじゃない。でも……アイツと話す君の顔を見ると、胸の奥がざわつく。怖くなるんだ」 告げられた”怖い”という言葉が意外だった。氷室にとって「怖い」は敵意や怒りではなく、もっと別の意味を含んでいるのだろうか。「なんで怖いの……?」 氷室はしばらく沈黙し、それから低い声で言った。「俺は……人を信じるのが、もともと得意じゃない。神崎みたいに、心の奥を隠したまま笑えるヤツを前にすると……昔を思い出す」 「なにを思い出すのかな?」 優しく問いかけると、氷室はまぶたを伏せ、ぽつぽつと語った。「小学生のときに使ってた、練習ノートに並んだ真っ赤な×印と、それを見た母の顔。俺がなにかで失敗したとき、同級生の笑顔の奥に潜んでいた視線。どれも声はないのに、ただ“離れていく”という予感だけが妙に頭に残っている」 語るたびに、氷室の横顔は少しずつ暗い色を帯びていく。俺はどう声をかけていいのかわからず、気づけば氷室の腕に縋りついていた。「神崎が……ああいう感情を持つ人間が、俺の傍にいる大事な人に近づくのは、どうしても警戒してしまう」 冬の入り口を告げるような冷たい風の中で、俺たちは少しずつ言葉を重ねていく。氷室は、ほんの僅かに歩幅を速めた。まるで、この話から逃げるように。俺は必死に、その歩幅に合わせる。 息を切らしながら、横目で見た氷室の顔には完璧さの奥に、子どもの頃から積もり続けた孤独と緊張が見え隠れしていた。 俺は氷室を安心させたくて小さく息を吸ってから、大きな声で告げてやる。「蓮……俺は大丈夫だからね。蓮から離れたり

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    今日も無事に一日が終わる――と言いたいところだが、最後の最後で黒板消しをひっくり返し、粉だらけになるというドジをやらかしたのは、まぁいつものことだった。林田には「日常の風物詩」なんて笑われたけど、俺は結構へこんでる。 木曜日の放課後。部活や生徒会もない今日は、氷室と待ち合わせることなく、自然に一緒に帰れる貴重な日だ。けれど今日はなぜか、彼の横顔がいつもより硬く見えた。「……蓮、なんかあった? なんとなく、いつもと違う気がする」 俺が訊ねると、氷室は小さく首を横に振る。その動きは否定というよりも、言葉を探しているように見えた。 歩きながら横目で窺うと、ふっと笑みを浮かべた氷室。けれどそれは、俺が見惚れる本物の笑顔じゃない。クラスメイトや生徒会で時々見せる、距離を取るための愛想笑いだった。「奏、昨日……君に言ったよな。『誰がなにを言おうと、君の価値は変わらない』って」 「うん、覚えてる」 素直に答えながら足を進ませると、舗道に落ちてる枯れ葉を踏むたびにかさりと乾いた音が響く。「俺も……そうありたかったんだよ。あのとき君に告げた言葉は、自分がそうありたかったものだったんだ」 氷室のセリフに、思わず足が止まる。胸の奥で、なにかが引っかかるような響きだった。「それ、どういう意味……?」 氷室も足を止め、前を向いたまま淡々とした声で続ける。「昔……今現在も……俺は“完璧でいること”を求められた。親にも周りにも。試験で一位を取るのは当たり前、ミスをしないのも当たり前だった」 そこで一旦口を引き結び、一拍置かれたあとに再開する。「忘れもしない、たった一度だけ……小学5年生のときに、二位になったことがあった。あの日、家の空気が変わったんだ。なにも言われなかったけど、沈黙が全部を物語ってた」 夕暮れの影が彼の横顔を切り取る。その表情は普段の氷室とは別人のように寂しげで、俺はどうしていいかわからなくなった。「蓮――」 「だから自分の弱いところを見せたら、離れていくと思ってた。奏にも、最初はそうだった」 胸の奥がじわりと熱くなる。氷室の完璧さは生まれつきの輝きじゃなく、そうせざるを得なかった過去の重みの上に立っているのかもしれない。「でも……君は違った」 氷室が俺をまっすぐ見つめる。その瞳はほんの少し潤んでいた。「文化祭の準備をしていたときに起

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